1学期終業式
連日報道されているように、九州北部では、10日ほど前の集中豪雨で30人が亡くなり、いまだに10数人の方の安否が分からず、また1000人近い方が避難生活をされています。様々な支援活動も始まっているようですが、大きな被害に遭われた方々の気持ちをお察しして一日も早い復興をお祈りするとともに、このような甚大な被害をもたらす災害がいつどこで起こってもおかしくないということを、私たちもあらためて意識する必要があります。そして環境問題についても、さらに関心を持ってしっかりと学ばなければならないと思います。
学校の方は、学期末になって大雨のため2日も休校になったり、試験中もJRのダイヤの乱れで開始が大幅に遅れる日が2日もあったりと、多少混乱がありましたが、予定通り今日で1学期を終えることができました。
この1学期の間ずっと正門とその周辺の改修工事が続いていましたが、ほぼ完成し、先ほど牛尾先生による祝別式も執り行われ、通ることができるようになりました。今までの正門は創立時からずっと使われてきたもので、背の高い木々の緑に包まれた周辺の風景と合わせて、広島学院の玄関口に相応しい静かで落ち着きのある空間でした。その風景がガラッと変わり、多少の寂しさはありますが、新しい正門がまた新しい広島学院の歴史を刻んでいってくれるものと思います。
なお、まだ少しあの辺りの工事が残っているそうですし、前庭のフェンスの外側の改修工事や前庭のアスファルトの張替え工事なども夏休みの間に予定されています。色々と不便なこともあるでしょうが、協力してください。
さて、今年がフィリピンのアテネオ・デ・ナガとの交流が始まってちょうど20年になるということを、3週間ほど前の朝礼で話しました。そのとき高2は修学旅行でいなかったので、もう一度話すと、その20年の交流を記念して本校からナガ校に「平和を実現する人は幸いである。その人は神の子と呼ばれる」というマタイによる福音の一節を日本語と英語で書いた掛け軸を、贈ることになりました。書道の中村先生の作品ですが、その1つを校長室の前のガラス棚にも掛けてもらっているので、みんなもよく見て味わってください。
その時の朝礼でも触れましたが、今までフィリピン研修に参加した多くの生徒や先生は、フィリピンの人たちとの心のこもった人間的な温かみのある出会いを体験しました。そのような人と人との繋がりによって平和は実現するのだと思います。
この言葉はナガ校との交流を記念するのに本当に相応しいと思うし、両校の交流がこれからも、この言葉の意味を体験的に学ぶ場としてますます発展することを願っています。学院を代表してこの夏にナガ校を訪問する高1の生徒は、ぜひこういったメッセージをナガ校の皆さんに伝えてください。
一方「平和の実現」に関連した、広島とも深い関係のある最近のニュースを1つ取り上げると、先日、国連本部で核兵器の開発や所有、使用など禁止する「核兵器禁止条約」が、加盟193カ国中の122カ国の賛成で採択されました。ただ残念ながら、核兵器の保有国や日本などの同盟国は会議そのものに参加していません。「70年以上にわたって平和維持の要となってきた核抑止政策と相容れない」という理由だそうです。日本は唯一の被爆国として、核兵器廃絶を強く願うというのが自然な発想でしょうが、アメリカからの強い圧力があったのか、或いはアメリカの意向を忖度したのか、とにかくアメリカに追従する姿勢をとっています。
そのことについて思うところは色々とありますが、それは置いておいて、この条約採択に対して、広島や長崎の被爆者の果たした役割は大きかったと言われています。多くの被爆者が、長年にわたって、壮絶な体験を証言し、核兵器廃絶を訴え続けてきました。この国連会議に出席したある女性は、13歳のときに被爆し、犠牲者の変わり果てた姿を見て「人間はこんな死に方をしてはいけない」と強く思った。その思いで被爆証言を続けてきたそうです。
こういった方々の地道な活動が、核兵器を持たない多くの国の指導者を動かしました。条約の前文には、今では世界の共通語になった「ヒバクシャ」という単語を用いて、「ヒバクシャの受け入れ難い苦痛に心を留め」とか「核兵器廃絶に対するヒバクシャの努力を認識し」といった言葉が入っているそうです。
核兵器の保有国や日本のような抑止依存国がこの条約の締約国になる見通しはなく、条約がどの程度の効力を持つのか疑問視する専門家は多いし、段階的に核兵器を廃絶していこうという今までの平和へのプロセスを妨げるものだという意見もあるようです。
しかし、世界の多くの国が被爆者の訴えに真摯に耳を傾け、国連の場で正式に「核は使ってはいけない」と決めて世界に発信した意義は大きいと、私は思います。今年も8月6日や9日が近づいてきますが、平和の実現のために証言を続けてこられた広島や長崎の被爆者の方々の思いを、私たちも、あらためて大切にしなければならないと強く思います。
では、9月1日の始業式に全員が元気に顔を合わせることができるよう、いい夏休みを過ごしてください。